2022年大学入学共通テスト 漢文雑感

塾長の安田です。

世間的には漢文の専門家ということなので、先日実施された大学入学共通テストの漢文について、簡単に書きたいと思います。
権利等に配慮しているので、すでに公開されている問題を見ながらご覧いただければ。

はじめに

『揅経室集』
清代の学者・政治家である阮元の文集。
今回の本文は彼の詠じた詩およびその序文。

「共通テストは複数テキストが出る!」と言われて久しいですが、そういう点ではありそうな形式でした。私はなにかしらの文に後世の学者が付けた注釈をセットにして出してくると思っているのですが(上智などで見られる形)、なかなか来ないですねぇ。

序文は7行ほど。文章の難易度は例年と大差ありません。時系列が入り組んでいるわけでもないので、勉強していれば内容は把握できると思います。
詩は七言律詩。尾聯の内容は注釈付きなものの、何を言いたいのか分かりにくかったかもしれません。が、詩とは本来そういうものです。短い中に色々と含意させるので簡単には汲み取れない。序文をきちんと読んだかどうかが鍵になりますね。

問1 語の意味

(ア)と(ウ)は難しくないです。ほぼ漢字の意味通りですし、文脈で確定させればいいでしょう。(ア)の選択肢5はちょっとなあ……と思わなくもないです。一瞬選びそうになってしまうのが怖い。
(イ)は読める人は「つまびらか」と読んで楽勝なのですが、知らない人が多いでしょうから、本文中のこの字句の後ろを読んで判断、でしょうか。「審査」「審理」あたりの熟語の意味を噛み砕いていくのも有効ですが、ちょっと遠回りかなと思います。内容的には難しくないですが、ちょっと苦戦した人も多いかもなあと思います。

問2 訓点と書き下し文

センター試験の時代から続く定番問題。そして今回も鉄板です。
文構造のキャッチ(主語+述語+~)が鍵で、返読文字であり全体の動詞となる「有」・動作を示す「呼」「入」「帰」あたりでしょうか。動作は基本的に下から返ってきて読むのを意識することです。ついでに、「而」あたりの字がないのもワンポイントかなと思います(←受験生はそこまで考えなくてもいいですけど)。苦手にしている人が多い問題ですが、たいていは動詞に着目して文構造を考え、返読文字や句法の知識を使っていけば分かります。

問3 解釈(というか句法)

「苟」が仮定、再読文字「当」が「まさに~べし」というのが分かれば楽勝です。いずれも句形練習のドリルで絶対に触れます。基本っちゃ基本です。

問4 漢詩の知識(押韻と形式)

まあとりあえず七言律詩ですから2択に絞ります。これは中学生でもできます(勉強するので)。
で、次が厄介なのですが、七言律詩の説明自体はどちらの選択肢も正しい。ということで、押韻で選ぶということになります。なかなかいい作りの選択肢だなと思います。
ルールに従って、韻を踏んでいるはずの字を音読みすると「タ」「カ」「ラ」「カ」(「何」を「カ」と読める人は多くないと思いますが……)。とりあえず、ア段やなーくらいで考えて選択肢を見ると、「歌」はピッタリ。「香」は「コウ」「キョウ」だからダメ、という感じかな。「か」と読むのは訓読み。「かおる」「かおり」みたいなのがいかにも日本語っぽいよなぁというところで判断できればいいかなと。平仄の話は……生徒には授業で話します(長くなるので)。
下手に詩の内容から深入りして、花が香るみたいに考えないことです。形式が大事。

問5 句法

「如何」「奈何」「若何」は基本中の基本。覚えろ以外のセリフが見当たらない……。
一応、「なにを」いかんせんなのか、と目的語を伴う場合は間にぶっこむ、というルールは押さえておく感じで。漢文必携などにも重要扱いで載っているので、しっかり覚えておく必要あり。

問6 内容把握

序文の流れ通りに選べばいい問題。2行目の二重傍線部Ⅰの直後、4行目「壬申春」の後ろ、5行目の傍線部Bの直後がそれぞれのポイント。瓜璽佳氏の庭園にも現れているけれども、それを含めた場合に正しい順番が選択肢にはないですね(入れるとしたら扇のあと)。
ちなみに、詩の冒頭にある「春の城」に現れたかどうかは分からないので、これは考慮の外に置くしかないですね。

問7 筆者の心情説明

序文の一番最後の部分がポイント。「思い返せば夢のようやなぁ(超訳)」ですから、これだけだとプラスかマイナスか判断しづらいかもしれません。いずれにせよ、感情の動きとしては極端さを示していないので、1~4の選択肢はわりとこれだけでも切れてしまうわけですが……(私は全部切って5を選んだ後に、一応各選択肢の文を確認しています)。

1は「美しい蝶」があかんでしょう。美しいかどうかは分かりませんから。「むなしく思っている」はなくはない表現かなぁとも思いますが、もろもろすべて他人のものになったことを~とがズレてますね。
2は「かなわぬ夢」がダメです。序文4~5行目および詩の頸聯をよく読みましょう。
3は「服」ってなんじゃ服って。
4は「奪われて」とか「~世界の違いを~」とか、このあたりがぜんぜん噛み合いませんね。序文の最終行を読みましょう。
5は文句ないです。箱に入れたはずなのに消えていた、というエピソードもきっちり説明しています。

ダメ選択肢はけっこうダメな部分が多いので、比較的絞りやすかったと思います。上に挙げたダメ部分は一部分です。

おわりに

難易度的には少し易しいか?という感じを受けますがどうでしょうか。
個人的には、序文と詩をもう少し絡めた問題にできると良かったのでは?と思うところはあります。今回の設問だと、両方載せている必然性が薄いんですよ(ないわけではないですが)。ぶっちゃけ、相互参照せずに分割しても全部解けるので。

ある程度私が漢文指導に手を入れた生徒たちの出来は点数だけ聞いていますが、まあまあというところ。何をこぼしとんねんというのを聞きたいのはちょっとありつつ、二次試験に向かうのが最優先なので、そのへんはまあいいかなと。だいたい変なのでこぼしてると思うので…(「復」で5を選ぶとか、押韻とか……)。満点の子は立派です。国語は配点が大きいだけに、ミスなく取り切るのは全体を考えても有利。

共通テストだからと、特別な勉強をする必要性はないです。

  • 基本句法のドリルでひと通り学習する
  • 教科書の文章(授業で扱ったものでよい)を、句法書片手に読み、書き下し、訳す
  • 漢詩の基礎知識は必須
  • 古典文法を習得しておく
  • 漢字の音読み・訓読みの区別や意味、およびその字を使う熟語を常に考える
  • 小中学校で習うレベルの故事成語は知っておく

私大や二次試験で漢文を使う人も基本的には同様の学習です。

ある程度やったら過去問に突っ込んでいく、でいいでしょう。

共通テストのレベルであれば、文系・理系は関係ないです。普通に理系の人でも50点取れます。今回のように数学や化学生物が大荒れするような試験になると(数学の大荒れはちょいちょい起こりますね)、こういうところでミスなく取ってあるかどうかというのが生命線になることもしばしばです。難易度が極端に上振れすることがあまりないので、安定させやすい科目でもあります。

実は大学受験の漢文を解く上で必要な力の大半は高校入学前に培われるものではないか?と最近は思うところ強し、です。小学校の時にどれだけ漢字や語句の学習で「意識高く」できたかがかなり大きな鍵だと思います。練習帳になぐり書きしているだけではなかなか難しい。ぜひ、考えながら字(ことば)に触れることを意識してもらいたいですね。

コメント

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